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佐藤正午『熟柿』レビュー 母として「自分ならどう生きていくか」

佐藤正午『熟柿』レビュー 母として「自分ならどう生きていくか」 読書

佐藤正午『熟柿』を読了しました。
母として「自分ならどうするか」を反芻し続けながら、ドキドキと少しの不安を抱えつつも一気に読み切った作品です。
夢中になりたい作品を探している方にお勧めしたいです。

著者紹介

1955年、長崎県佐世保市生まれ。
1983年、デビュー作『永遠の1/2(にぶんのいち)』ですばる文学賞を受賞(1987年に映画化)。
日常と非日常のはざま、“もう一人の自分”や偶然の一致といったモチーフを、軽妙さと緻密さを併せ持つ筆致で描く作風が特徴です。

代表作に『ジャンプ』『身の上話』『鳩の撃退法』などがあり、2017年には『月の満ち欠け』で直木賞を受賞。
人物の視線や沈黙、選択の一拍を積み重ねる語りで、読者に「自分ならどうするか」という問いを返してくる作家です。

作品紹介|『熟柿』の基本情報

  • タイトル 『熟柿』
  • 著者 佐藤正午
  • ジャンル/トーン 長篇/静かな緊張感と余韻で読ませるタイプ
  • 語りの特徴 主人公(母)の“見たこと・考えたこと”に限定された視点。
    相手の内面は直接描かれず、読者も推測しながら進む。
  • 主題の手ざわり 母性、責任、沈黙、選択のタイミング、生活の持続
  • 読み味 重大な事件を起点に始まり、その後は小さな判断と沈黙の連鎖で緊張が増していくタイプ。
    集中して一気読みになりやすい。
  • こんな読者に 余韻や行間を味わいたい
    “自分ならどうするか”を考えたい読者

感想 母として感じたこと

主人公(母)の見たこと・考えたことだけで物語が運ぶため、他者の心は終始推測のまま。
日常と同じ不確かさで判断を迫られる感覚が強く、読書と自分の生活の境界線がなくなっていくような感覚がありました。

重大な事件のあと、働く場所や人間関係で何度も擦り傷を負い、そのたびに思考の余白が痩せていきます。
視野が狭まり、「いまをしのぐ」選択に寄ってしまう過程が痛いほどリアルで、胸のざわつきが読了まで続きました。

それでも、会えない子に向けられ続ける思いは消えないわけです。
出産時に顔を見ただけの我が子に語る思いは、出口のないままノートに刻まれていきます。

増えていくノート。
決して伝わることのない言葉。

ただ生きているだけに見えても、子供の成長とともに会いたい、絶対に会うという強い想いが芽生えていきます。

やがて、さらにトラブルが起きていく。

もう、読んでいる方もかなり辛くなってきましたが、この母親に幸せになって欲しいという気持ちだけを原動力にして読む手は止まりませんでした。
「自分ならどうするか」と何度も立ち止まって考えました。

「熟柿」という題の手ざわりも、良い意味で読後にじわりと残りました。

これを言うと、また息子からスピリチュアルと言われてしまいますが、「運」とか「タイミング」とかそう言うものが人生の中で重要であることは間違いないと思いました。

まとめ

人生をぶち壊してしまうような大変な過ちを自分が犯してしまったら・・・
その後の一歩一歩を、私はどう選ぶのか。
主人公の人生をともに歩きながら、祈りのような読書体験でした。

とにかく文章が読みやすいので、集中して読書したい方にはお勧めできる作品です。

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