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ツミデミック感想|あざとい連作短編に飽きた人にこそ刺さる一冊

ツミデミック感想|あざとい連作短編に飽きた人にこそ刺さる一冊 本(読む・聴く)

最近職場で、オーディブル仲間がもう1人いることが判明しました。
これで自分を入れて3人です。
仲間が増えると、面白い本の情報交換ができるのでとても楽しいのです。
そんな仲間たちとの間で今、話題になっているのが一穂ミチさんの『ツミデミック』でした。

実は最近、短編集という形式の作品には、どこか食傷気味な自分がいました。
近頃の「連作短編」によくある、最後に無理やり登場人物全員を繋げて伏線を回収するような、あざとい展開がどうしても気になってしまって……。

パズルのピースを合わせるために物語そのものが歪められているような違和感に、どこか冷めてしまう自分がいたのです。

けれど、この『ツミデミック』だけは別物でした。
一編、また一編と聴き進めるうちに、その圧倒的なストーリーテリングに深く引き込まれていく。
そこに描かれていたのは、私たちがようやく忘れようとしている、あの「コロナ禍」という特殊な時間を背景にした、少し暗くて、心揺さぶる物語でした。

独立した物語が持つ、圧倒的な没入感

この作品が素晴らしいのは、安易な「全員集合」に逃げないところです。
一編一編が独立した強い熱量を持っていて、それぞれの人生が抱える「逃れられない現実」を、丁寧に、そして鮮烈に描き切っています。

全6編の舞台は、あの先の見えない不安に包まれていた数年間。
「違う羽の鳥」や「特別縁故者」など、どの物語も展開が秀逸で、グイグイと引き込まれる力があります。

短い時間で楽しめるボリューム感なのに、その密度がとにかく濃い。
「次はどうなるの?」という純粋な好奇心が刺激され、家事の手を止めて聴き入ってしまうほどの面白さがありました。

記憶から抜け落ちていた「あの数年間」のこと

全6編の舞台は、あの先の見えない不安に包まれていた数年間。
私ははっきりとした記憶がありません。
日々の不安と息子の受験の不安が重なって、「GO TO TRAVEL」なんて全く関係のない毎日を送っていました。

世の中がキャンペーンに浮き足立っていても、自分だけは取り残されているような、あるいは、それどころではない場所にいるような、そんな感覚。
でも、この『ツミデミック』を聴いていると、あの時期に私が感じていた「うまく言葉にできないモヤモヤ」の正体を突きつけられたような気がしたのです。

第171回直木賞を受賞した圧倒的なストーリーテリング

この『ツミデミック』は、第171回直木賞を受賞した一穂ミチさんの最新作です。
正直に言えば、直木賞受賞作だからといって必ずしも自分の好みに合うとは限りません。
けれど、この作品に関しては、その受賞も納得の圧倒的なストーリーテリングがありました。

「次はどうなるの?」という純粋な好奇心が刺激され、家事の手を止めて聴き入ってしまうほどの面白さ。
その筆力には、ただただ圧倒されるばかりです。

著者・一穂ミチさんが描く「地続きの日常」のリアリティ

著者の一穂ミチさんは、もともとBL(ボーイズラブ)小説の分野で繊細な心理描写に定評のあった方。
近年は『スモールワールズ』が本屋大賞にノミネートされるなど、一般文芸でもその筆力を遺憾なく発揮されています。

一穂さんの描く世界は、決して甘いだけではありません。
コロナ禍という異常な日常の中で、人々が抱え込んでしまったやるせなさや、静かな怒り。
物語全体を覆うトーンは少し暗いものですが、その「暗さ」こそが、あの時期を必死に生きた私たちのリアルだったのかもしれません。

読み終わったあとに、「自分だったらどうしていただろう」と深く考えさせられるものばかりでした。

あざとい連作の手法に飽きていたはずの私が、最後の一編まで夢中になってしまった。
「最近、本当に面白い本に出会えていない」という方にこそ、ぜひこの没入感を味わってほしいと思います。

まとめ

職場のオーディブル仲間との何気ない会話から手に取った(耳にした)『ツミデミック』。
「連作短編はもういいかな」と思っていた私に、物語が持つ純粋な力と、忘れていたあの数年間の手触りを思い出させてくれました。

あざとい演出や無理な大団円に飽きてしまった大人にこそ、この一穂ミチさんが描く「本物の物語」に浸ってみてほしいと思います。

次は職場で、どんな本の報告ができるでしょうか。
仲間と感想を言い合える楽しみがあるから、私の読書の時間は、これからもまだまだ続きそうです。

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